- 遺伝子組み換え作物って何?
- どんな影響があるの?
スーパーでなどで購入した食品の成分表示を見て疑問に思っている方も多いでしょう。
遺伝子組み換え作物は科学技術を駆使して作られるため、食料生産に大きな影響を与えると言われています。多くのメリットがある一方で、潜在的リスクもあるかもしれません。
本記事では遺伝子組み換え作物の基礎知識、法律、メリットとデメリットを紹介します。遺伝子組み換え作物の理解を深め、食について考えていただけると幸いです。
遺伝子組み換え作物の基礎知識

遺伝子組み換え作物はDNA技術を用い、植物の遺伝情報を人工的に改変しています。耐病性や耐乾性、高収穫量などの特性を持たせた作物です。1990年代から商業利用が始まり、遺伝子組み換え作物の第1号であるトマトは、保存期間が長くなりました。
現在、遺伝子組み換え作物は世界中で栽培されており、特にアメリカ、ブラジル、アルゼンチンといった国々が大きな生産国です。遺伝子組み換え技術の導入により、農業の効率化と生産性向上を大きくしています。
遺伝子組み換え技術とは
遺伝子組み換え技術とは、生物のDNAを直接操作して遺伝情報を人工的に変更する方法です。特定の遺伝子をある生物から取り出し、別の生物のゲノム(※1)に挿入することで可能となります。
遺伝子組み換えによって植物や動物、微生物に新たな特性や機能を持たせます。病気に強い作物の開発、医薬品の生産、環境保全を目的とした新しい生物の創出など多岐にわたる応用が可能です。
※1 ゲノムとは、生物の体づくりや機能をつかさどる全ての情報。遺伝子もゲノムの一部。
遺伝子組み換え作物の歴史
遺伝子組み換え作物の開発は、1970年代に遺伝子操作技術が登場して以降、農業に革命をもたらしました。植物のDNAを直接改変して、病害虫に強い作物や栄養価が高い作物を生み出せます。
遺伝子組み換え作物の主な歴史は以下のとおりです。
1970年代 | 遺伝子操作技術の登場 |
1973年 | 遺伝子組み換え実験の成功 |
1980年代 | 開発進展と商業栽培のスタート |
1994年 | トマト「フレーバーセーバー」市場導入 |
1996年 | 大豆とトウモロコシの商業栽培開始 |
2000年代以降 | 遺伝子組み換え作物が農業を支える技術として定着 |
遺伝子組み換え作物の発展で、今後あらゆる問題の解決につながります。
遺伝子組み換え作物に関する法律

遺伝子組み換え作物が広まる中、消費者の安全と環境保護を目指し、さまざまな法律が制定されています。法律は、遺伝子組み換え作物の適切な管理と規制を確立するために欠かせません。
遺伝子組み換え作物に関わる法律を詳しく紹介していきます。
食品衛生法
食品衛生法は、私たちが安心して食品を食べられるように定められた法律です。食品衛生法の特徴は以下のとおりです。
- 食品の安全と衛生を守るために法律が定められている
- すべての食品は、厳しい安全性評価を受ける必要がある
- 遺伝子組み換え食品は、安全性確認後にのみ市場に出せる
- 消費者が選択できるよう、適切な表示が義務付けられている
JAS法
JAS法は、遺伝子組み換え作物を含む農林水産物の品質を保証するための重要な法律です。JAS法の特徴は以下のとおりです。
- JAS法は、農林水産物の品質を保証する法律
- JASマークは、品質の証
- 遺伝子組み換え表示で、消費者は正確な情報に基づいて選択可能
- 違反には罰則があり、厳格な規制で品質保持
飼料安全法
飼料安全法は、家畜の飼料の安全性と品質の保証を目的としています。飼料安全法の特徴は以下のとおりです。
- 畜産物の安全性を向上させる
- 飼料の製造から販売までの各段階に厳しい基準と規制を設ける
- 違反には罰則を設ける
- 畜産業の持続可能性を守る
カルタヘナ法
正式名称は「生物多様性に関するカルタヘナ議定書の実施及び遺伝子組み換え生物等の安全性の確保に関する法律」です。遺伝子組み換え生物が、自然環境や生物多様性に与える影響を厳しく規制することを目的としています。
カタルヘナ法の特徴は以下のとおりです。
- 遺伝子組み換え生物の使用、取扱い、輸入などの詳細な規則
- 事前の届出や申請、適切な承認が必要
- 生物安全委員会が設置され、科学的根拠に基づいたリスク評価と管理の実施
遺伝子組み換え作物のメリット

遺伝子組み換え作物の導入にはたくさんのメリットがあります。作物の収穫量を増やすだけでなく、生産コストの削減や食料不足の問題解決に役立つ可能性が期待できるでしょう。
遺伝子組み換え作物のメリットは以下のとおりです。
- 収穫量が増加する
- 生産コストが下がる
- 食料不足の解消につながる
- 肥料の使用量を減らせる
- 温室効果ガスの排出量を削減できる
収穫量が増加する
遺伝子組み換え技術は、収穫量を増加させるメリットもあります。早熟性遺伝子の導入で、農作物の生育期間を短縮させることに成功したからです。トマトやトウモロコシなどの作物が通常よりも早く成熟します。
一定期間内に収穫量を増やし、農家の収益向上に貢献しています。
生産コストが下がる
遺伝子組み換え技術によって、生産コストが下がるのも大きなメリットの1つです。病害虫や環境ストレスに対する作物の耐性を高めたからです。従来の農薬や防除方法に頼らず、少ないコストで最大限の成果を出し、安定した収穫を実現しました。持続可能な農業の実現にも役立っています。
食料不足の解消につながる

収穫の間隔が短縮された遺伝子組み換え作物は、食糧不足の解消につながります。1年に複数回の収穫が可能となるため、食料生産の効率化に大きく貢献しました。
遺伝子組み換え技術により、食料需要が高い地域での食糧確保を果たすことが期待されています。
肥料の使用量を減らせる
遺伝子組み換え技術は、肥料の使用量を減らせます。肥料をより効率的に吸収・利用できる作物の開発に成功したからです。窒素固定能力を持つ遺伝子の導入で、化学肥料への依存度を減らしています。肥料使用量を減らし、土壌や水質汚染など環境問題の解決につながっています。
温室効果ガスの排出量を削減できる
遺伝子組み換え作物により、温室効果ガスの排出量が抑えられることもメリットです。遺伝子組み換え技術によって肥料や農薬の使用量を減らせば、温室効果ガスの排出量削減につながります。従来の農業では、化学肥料や農薬の製造・輸送・使用過程で温室効果ガスが発生します。
温室効果ガスの排出量削減は、地球温暖化対策として重要な課題です。遺伝子組み換え技術は、持続可能な社会の実現に貢献しています。
遺伝子組み換え作物のデメリット

遺伝子組み換え作物にはデメリットもあります。主なデメリットは以下のとおりです。
- 生態系を壊す可能性がある
- 健康被害のリスクがある
- 開発に時間がかかる
生態系を壊す可能性がある
遺伝子組み換え作物が花粉によって野生植物と交雑(※2)してしまうと、生態系に悪影響がでる可能性があります。野生植物の本来あるべき多様性が失われ、在来種との競争によって絶滅危惧種の植物が絶滅するリスクが高まります。
遺伝子組み換え作物の栽培は、生態系への影響を十分に配慮し、適切な対策を打つのが重要です。
※2 交雑とは異なる品種や系統が交配し、遺伝子が混ざり合う現象。
健康被害のリスクがある
遺伝子組み換え作物には、健康被害のリスクもあります。長期的な研究結果が十分に得られていないため、アレルギー誘発や未知の健康被害のリスクが考えられるからです。
遺伝子組み換え食品の安全性は、国際的な基準に基づいた評価が行われています。より長期的な視点での研究と情報公開が必要です。
開発に時間がかかる
遺伝子組み換え作物の開発には、長い時間と多額の費用がかかります。遺伝子組み換え技術の確立や品種改良、安全性の評価など、さまざまなプロセスを経た品種を開発しなければなりません。
イネの新しい品種を作るまでには10年以上かかり、多額の費用がかかっています。開発期間の長さとコストの高さが、遺伝子組み換え作物の普及を遅らせる原因の1つです。
» 農林水産省/イネの品種改良(外部サイト)
遺伝子組み換え作物の事例

遺伝子組み換え技術は、農作物の特性を改良するために利用されています。除草剤の影響を受けない作物、病気に強い作物、害虫に強い作物の3つの事例について、詳しく解説していきます。
除草剤の影響を受けない作物
遺伝子組み換え技術を利用した作物は、特定の除草剤に耐性を持つように開発されています。農業生産者は作物が健全に成長する一方で、雑草を効果的に管理できるようになります。以下は除草剤耐性を持つ作物の例です。
- 除草剤耐性大豆
- グリホサートと呼ばれる除草剤に対して耐性を持ち、栽培が容易になる。
- 除草剤耐性トウモロコシ
- アトラジンと呼ばれる除草剤に対して耐性を持ち、雑草防除が効率化する。
除草剤耐性のある作物のメリットは以下のとおりです。
- 農作業の手間とコストを削減できる
- 環境負荷を減らせる
- 収穫量を増やせる
病気に強い作物
病原体に対する抵抗力を持つ作物を育てることで農薬の使用量を減らし、環境への影響を軽減できます。以下は病気に強い作物の例です。
- パパイヤ
- パパイヤリングスポットウイルスに対する抵抗性を持つ、遺伝子組み換えパパイヤの開発。
- 病害抵抗性トマト
- トマトの病害であるトマトモザイクウイルス(ToMV)や、フザリウム枯萎病に対する抵抗性を持つ品種の開発。
遺伝子組み換えによって病気への抵抗力を持つ作物の開発を行うことは、農業生産性の向上に寄与し、食料供給の安定にも貢献します。
害虫に強い作物
害虫に強い作物は、遺伝子組み換え技術や特定の育種技術を用いて開発され、害虫被害の軽減が可能です。農薬の使用量を減らし、環境に優しい効果も期待できます。
- 抗虫性ジャガイモ
- 害虫に対する耐性を高めたジャガイモ。農薬の使用を削減でき、収穫量を向上させる。日本ではまだ販売や流通が認められていない(2024年6月現在)。
- Btトウモロコシ
- 土壌細菌から作られた遺伝子を搭載。ヨーロッパオオモンシロチョウの幼虫などの害虫に対して強い抵抗力を持ち、農薬の使用量を大幅に減らした。
遺伝子組み換え技術の進歩により、農家はより効果的で環境に優しい方法で作物の保護ができます。
遺伝子組み換え作物を避ける方法

遺伝子組み換え作物が含まれていない食品を選べば、デメリットを避けることができます。遺伝子組み換え作物を避けることで健康面や、環境への影響に配慮しましょう。
遺伝子組み換え作物を避ける方法は以下のとおりです。
- 遺伝子組み換え作物の表示を確認する
- オーガニック食品を選ぶ
- ローカルフードを購入する
- 遺伝子組み換え作物を使用しないブランドを選ぶ
- 食品の追跡システムを利用する
遺伝子組み換え作物の表示を確認する
遺伝子組み換え作物を判別するには、商品の表示を確認しましょう。日本では、特定の遺伝子組み換え作物が5%以上含まれる場合に表示が義務付けられています。「NON-GMO」や「遺伝子組み換えでない」というマークがある食品を選んでください。
欧米では遺伝子組み換え作物を示す、特定のコード番号で表示される場合もあるので注意が必要です。輸入食品を選ぶ際は、輸出国の遺伝子組み換え作物の表示基準を調べましょう。
オーガニック食品を選ぶ
オーガニック食品を選び、健康的で環境に優しい方法をとりましょう。オーガニック認証を受けた食品は厳しい基準をクリアし、品質の信頼性が保証されているからです。
オーガニック食品は農薬や化学肥料を使用しない栽培方法で生産されているのが特徴です。食品の安全性は非常に高く、自然環境への配慮もされています。地球環境への負担を減らし、持続可能な消費行動ができます。
ローカルフードを購入する

ローカルフードの購入は、遺伝子組み換え作物を避けるのに有効です。地元の農場や市場から直接、食材を購入することで、遺伝子組み換えでないかどうかを確認しやすくなります。地域の農家と直接話しをして、栽培方法などの具体的な情報を聞きましょう。
ローカルフードのメリットは、遺伝子組み換えでないという確認だけではありません。地元で収穫されたばかりの食材は、輸送距離が短いので鮮度が保たれています。味も良く栄養価が高いです。長距離で輸送された食材にはない、大きなメリットです。
消費者がローカルフードを選ぶと、地域の農業の助けとなり環境への配慮にもつながります。ローカルフードで健康、環境、経済に良い影響を与えましょう。
遺伝子組み換え作物を使用しないブランドを選ぶ
遺伝子組み換え作物を使用しないブランドを選び、安全な食品を手に入れましょう。ブランドを選ぶポイントは以下のとおりです。
- ブランドの包装や広告に「非遺伝子組み換え」や「GMOフリー」と明記されているか確認する
- オーガニック認証を受けているブランドを選ぶと、自動的に遺伝子組み換え作物は避けられる
- 遺伝子組み換え作物を、使用していないと公言している企業の食品を優先する
- 信頼できる消費者団体や環境保護団体が推薦するブランドを選ぶ
遺伝子組み換え作物でない食品を選び、健康や環境に配慮しましょう。
食品の追跡システムを利用する
食品の追跡システムを活用し、食品の産地や生産者の情報を正確に把握しましょう。食品がどのようなルートを経て店頭に並んだのかを知ることが可能です。
食品に不正や汚染が疑われた場合、追跡システムは迅速で正確な対応を行います。デジタルトレーサビリティ技術を活用したQRコードやRFIDタグ(※3)などで、食品の情報へ簡単にアクセス可能です。食品の安全性を重視する消費者の信頼の向上につながります。
※3 RFIDタグとは、電波で情報を送受信し、バーコードよりも離れた場所で素早く読み書きできる小型のタグ。
まとめ

遺伝子組み換え作物は、食料問題の解決に一役買い、環境保護や生産効率の向上にも貢献しています。特定の遺伝子操作により、収穫量を増やすことが可能です。
一方で生態系への影響や健康リスクといった懸念も存在します。遺伝子組み換え作物は、食品衛生法やカルタヘナ法といった法律によって厳格に規制されており、使用には注意が必要です。
遺伝子組み換え作物を取り巻く科学技術と法規制の両面から、理解を深めることが重要です。
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